福岡地方裁判所小倉支部 平成6年(ワ)1633号 判決 1996年12月26日
原告
中丸徳保(X)
右訴訟代理人弁護士
河辺真史
被告
北九州市(Y)
右代表者市長
末吉興一
右訴訟代理人弁護士
吉原英之
右指定代理人
平野英雄
同
江島弘光
同
宮下俊則
同
鐘ケ江祐二
同
石井博幸
同
高橋幸弘
同
三山親徳
同
恵木貴裕
理由
一 本件事故の発生の有無
1 請求原因1の原告主張の場所に本件車止が設置されていることは当事者間に争いがないところ、〔証拠略〕を総合すると、次の事実が認められる。
原告は、本件事故当時有限会社西車配送センターに運転手として勤務し、バス車両の陸上運送に携わっていた。
原告は、平成二年三月三日午前五時五〇分ころ、北九州市小倉南区の西鉄中谷営業所から同市小倉北区西港一丁目一番所在の西日本車体工業株式会社にバス車両を持ち込んだ後、すぐに同所から修理の終わっていたバス車両を福岡市内にある西鉄博多営業所に届けるため運送しようとしたところ、原告が運送する予定のバス車両を他の従業員が誤って運送し出発していた。右車両は近くの同区東港一丁目所在の北九州市トラックステーションのガンリンスタンドで給油を行っていくということであったところから、原告は、直ちに右車両に追いついて間違いを知らせようとして、同車内に置いてあった自転車に乗って、右ガンリンスタンドに向かった。
原告は、自転車の前照灯を点灯して、時速約二〇ないし二五キロメートルの速度で急ぎ、本件歩道上の真ん中付近を戸畑方面から小倉駅方面に向けて進行し、同日午前六時ころ本件車止付近に差しかかったが、本件車止の約一ないし二メートル手前で本件車止に初めて気付き、制動措置が間に合わず、そのまま本件車止に自転車の前かご部分等が衝突して、原告は額から前方に転落して、うつぶせに転倒した。
その後、原告は仰向けに寝返ったが首から下が動かなくなったため、その場に倒れたままであったところ、二〇分程後に同所付近を通りかかったトラック運転手に発見され、救急車で北九州市内の健和会大手町病院救急科に、同日午前六時三〇分ころ搬送されたが、同日九州労災病院に転院し頸髄損傷の病名で入院するに至った。
なお、原告が本件歩道を通行するのは本件事故時が初めてであった。
2 右認定に対し、被告は、本件事故発生については目撃者はなく、原告の供述のみが本件事故の発生を裏付ける証拠として存在しているにすぎないところ、本件事故直後からの原告の本件事故状況に関する供述は、原告主張の事故態様とは一致せず、またその内容も変遷して一貫していないから信用性を欠くものであって、原告が本件車止に衝突した事実を認めることができない旨の主張をしている。
なるほど、本件事故当日である平成二年三月三日に原告が搬送された健和会大手町病院救急科の医師松久保耕作作成の九州労災病院整形外来医宛の紹介状(〔証拠略〕)中には、「今朝六時半頃自転車にて走行中標識に衝突、前方へ転倒」、同日付けの九州労災病院の外来診療録(〔証拠略〕)中には、「午前六時三〇分自転車で標識に衝突、前方へ転倒」、同病院の入院診療録(〔証拠略〕)中には、「午前六時三〇分頃、自転車で走行中、標識に衝突、前方へ転倒し受傷す。」、同じく同病院の入院診療録(〔証拠略〕)中には、「六時半(午前)頃、自転車で走行中歩道のまん中で暗かったため標識に衝突、前方へ転倒」、「午前六時三〇分頃、自転車で走行中標識に衝突、前方へ転倒し、受傷す(二〇分ぐらいその場に倒れていた。意識消失なし。)」という各趣旨の記載があり、また、北九州市東労働基準監督署に対する原告の各労災保険給付請求に際しては(〔証拠略〕)、いずれも災害発生年月日が「平成二年三月三日午前六時三〇分頃」と報告され、その際の状況としては「トラックセンターの近くで歩道の段差でハンドルをとられ転倒負傷した」旨(平成二年四月九日受付療養補償給付請求書)、「トラックセンター近くで歩道の段差でハンドルをとられ鉄柱に激突転倒負傷した」旨(同年五月一日受付休業補償給付支給請求書)、「トラックセンターの近くで歩道の鉄パイプにて転倒負傷した」旨(平成四年一月四日受付障害補償給付支給請求書」の各記載がなされており、さらに平成二年九月二一日付けの交通事故証明書(〔証拠略〕)では、本件事故の発生日時として、「平成二年三月三日午前六時ごろ」、事故類型としては「車両単独、その他」に分類すると記載されており、これらの各記載内容をみると、本件事故直後から原告によってなされた事故の発生時刻や態様に関する各供述は確かに変遷しており、本件において原告の主張する事故態様とは異なる説明がなされている。
しかしながら、前記認定のとおり、本件事故当日原告において頸髄損傷の病名で入院している上、いずれも〔証拠略〕によれば、本件車止直近の小倉駅方面の歩道上に血痕様のしみが残っていたこと、原告が本件事故当時乗っていた婦人用自転車の前かごが、地面と水平方向に曲損していることが認められ、また、本件事故直後に記載された健和会大手町病院医師作成の前記紹介状(〔証拠略〕)、九州労災病院医師作成の外来及び入院診療録(〔証拠略〕)の各記載はいずれも車止でなく標識にぶつかったとして、衝突した対象物は異なってはいるものの、道路上の障害物に衝突して前方に転倒したという態様それ自体としては、原告の主張と符号しており、殊に右入院診療録中には、本件事故の原因として「歩道のまん中で暗かったため」衝突した旨説明がなされていることからすると、前記のとおりの本件事故後の原告の供述の変遷や原告主張の本件事故態様と異なる説明をもって直ちに原告本人尋問における供述が信用できないとすることはできない。
また、事故発生時刻についても、前記認定のとおり、原告がバスの回送の誤りの事実を知ったのが午前五時五〇分ころであること、その後すぐに原告が右事実を知らせに自転車で走行していることに、前示のとおり原告が本件事故直後九州労災病院で「歩道のまん中で暗かったため衝突した」旨述べているところ、当日の日の出は午前六時四四分であること(〔証拠略〕)から考えると、本件事故の発生時刻は午前六時ころと認めるのが相当である。
なお、被告は、本件歩道は、誤って回送されたバスがいるガンリンスタンドに至る経路としては遠回りの経路であるとして、原告が誤った回送を防ぐ目的で走行する場所としては不自然であるとするが、確かに本件事故現場周辺の地図(〔証拠略〕)によると若干遠回りとはなるものの、本件全証拠によっても原告が本件歩道以外の経路を進行した事実は認められないのであって、前記認定を左右できるものではない。
二 被告の責任の存否
1 本件歩道が一般国道一九九号線の一部であって、その管理者が国から機関委任事務を受けた北九州市長であり、右管理費用の負担者が被告であることは当事者間に争いがない。
2 ところで、国道ないしその附帯施設が国家賠償法二条一項にいう公の営造物であることは多言を要しないところ、同条項にいう「公の営造物の設置又は管理の瑕疵」とは、営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいい、事故の発生する危険性が客観的に存在し、事故発生の予測可能性が存し、事故発生の回避可能性が存するにもかかわらず、管理者が事故回避の措置を講じなかった場合には、当該営造物は通常有すべき安全性を欠き、その設置又は管理に瑕疵があるというべきである。
そして、右瑕疵の存否については、当該営造物の構造、用法、場所的環境及び利用状況等の諸般の事情を総合考慮して具体的、個別的に判断されるべきである。
3 そこで、本件についてこれをみるに、〔証拠略〕によれば、本件事故当時の本件車止の形状及びその設置箇所付近の状況につき、以下の事実を認めることができる。
(一) 本件歩道は、北九州市長管理に係る一般国道一九九号線の一部で、その周辺は工場群のある地帯である。右国道は、片側二車線の幹線道路であり、大型車両を中心として一日中通行量の多い道路であることから、歩行者の安全のために、車道の両側には歩道が設置されている。なお車道と歩道との間には低い樹木による植え込みがなされている。
(二) 本件車止の形状は、幅〇・七七メートル、高さ〇・七二メートルのコ字のアーチ型鉄柱であり、本件事故当時には蛍光塗料の塗布されたテープは巻き付けられておらず、アスファルト道路と同系色の灰色であった。
本件車止は、幅員三・六メートルの本件歩道上に設置されており、隣接する山田港運株式会社の倉庫への出入口が存在するため、歩行者の安全確保と、歩道への違法駐車車両の侵入を防止する目的で、両端から約一・四メートルの歩道の中央部分に設置されている。なお同種の車止が本件歩道の両端の交差道路の境にも設置されており、本件車止はほぼその中央付近に位置する。
(三) 本件歩道の上には、街路灯等はなく、右歩道を覆うような形で北九州市都市高速道路が設置されており、一般の道路に比較してやや暗い状況にあるため、付近の明るさを確保すべく、本件国道の中央分離帯には、高さ約八メートルの道路灯が約六〇ないし七〇メートルおきに設置され、右道路灯には、二二〇ワットのナトリウム灯が二機設備されており、本件車止から約一六メートル離れた位置に道路灯が設置されている。
右道路灯は、周囲の照度が八〇ルクス以下になると点灯するものであり、本件事故当時も道路灯が設置され、点灯していた。
なお、隣接する車道には早朝から普通乗用自動車や大型小ラックが走行しており、ヘッドライトの照明が歩道にもあたり光源となっている。
4 本件車止の設置・管理の瑕疵の有無
〔証拠略〕によれば、平成八年二月七日(日の出午前七時一〇分)、同月八日(日の出午前七時九分)の二日間にわたり、午前六時三〇分ころの本件事故現場の照度を測定した結果、本件車止の周辺の歩道部分(本件車止の位置から戸畑方面一五メートルまでの範囲)の照度は約三ないし五ルクスであること、一般に一・八ルクス以上の照度があれば四メートル離れた位置から人を観測した場合にその人物が特定でき、五ルクスの場合には一〇メートル離れた位置からでも特定が可能であることが認められる。また、〔証拠略〕によれば、本件車止には、現在反射テープが巻き付けられており、日の出前でも道路灯の照明で本件車止から一五メートル離れた位置から本件車止を確認できることが認められないではない。
しかしながら、〔証拠略〕によれば、日の出前の本件車止の視認状況としては、反射テープに覆われた部分が浮かび上がるようになっており、これによって本件車止の存在がかなり判別しやすくなっていることが認められるのであって、その反面本件事故当時のように反射テープが巻き付けられていない場合には、高速道路や植え込みによって歩道が暗くなっている上、車止の位置、形状に加えて道路の色と車止が灰色の同系色であり夜間その区別が必ずしも判然とし難い面が窺われるのである。しかも、本件の如く自転車で通行するものにとっては交差道路との境にある車止の場合に比して歩道の途中にある本件車止を早期に発見するのが困難なことも予想されるのであって、また、夜間であっても無灯火で自転車を運転する通行者が存在することも必ずしもまれではなく、夜間通行するものが本件車止を発見するのが遅れて、衝突する可能性がないとはいい難い。
そして、本件事故後、前記認定のように本件車止には反射テープが巻き付けられ、夜間の衝突事故発生防止のための措置が現に講じられていること、本件同様に車両の侵入を防ぐ目的で設置された北九州市内の車止について、反射テープが巻き付けられたり、白、黄色、赤色の塗装がされるなどして通行者の注意を喚起する措置をした事例が複数存在すること(〔証拠略〕)等に照らすと、本件事故に先立ち被告としては本件車止につき危険防止の措置を講じるべきであったというべきである。そうすると、北九州市長の本件車止の設置ないし管理には瑕疵があり(ひいては道路設置管理の行政主体である国にも)、被告は右管理費用の負担者として国家賠償法三条一項に基づき原告の損害を賠償すべき責任があるというべきである。
5 これに対し、被告は、道路交通法六三条の四によれば、歩道を自転車で通行する場合は徐行しなければならないとされており、この場合の徐行とは時速六ないし八キロメートルであると解されるところ(〔証拠略〕)、原告がこれを大幅に上回る時速約二五キロメートルの高速度で本件歩道上を走行し、かつ、本件事故当時、本件車止を視認できる十分な照度が確保されていたにもかかわらず、原告が前方を全く注視していなかったために本件車止に衝突したものであって、原告の本件における通行は通常予測される交通方法であるとはいい難く、通常予測される交通方法による自転車の通行をすれば衝突が発生する危険性がない本件車止については、設置又は管理に瑕疵があったとはいえない旨主張する。
確かに自転車が歩道を通行する際には歩行者の安全を確保するため徐行をなすべきであるが、歩道上において遵守速度をかなりの程度上回る速度で走行する自転車が少なからず存在することは良く知られているところであり、また、本件歩道が前記認定のとおり工場地帯にあって、その場所・位置からみて比較的人の通行しない歩道と推測されるところからしても、徐行しない自転車が通行することも、遵守速度の存在とは別に、道路管理者としては当然考慮して道路の設置又は管理を行うべき必要があるのであって、しかも、原告の走行態様が本件歩道での通常予測される交通方法を逸脱した異常なものとまで断ずることはできない。
また、本件事故当時原告において本件車止を視認できたかどうかについても、前記認定の本件車止の位置、形状、色彩等に照らすと、夜間における本件車止の危険性を否定することはできない。
そして、本件歩道やその周辺の車止での事故が昭和六二年以降現在まで一件もないことが窺われる(〔証拠略〕)が、そうだからといってこれをもって直ちに設置管理に瑕疵がないともいい難い。
三 原告の損害
1 原告の傷害及び後遺症
〔証拠略〕によれば、原告は、本件事故により受傷し、本件事故当日北九州市内の健和会大手町病院に救急車で搬入され、同病院で、頸髄損傷(疑い)、左下腿裂創、顔面挫創と診断され、同日同市内の九州労災病院に転送されたこと、同病院では中心性頸髄損傷(第五、六頸椎)、外傷性頸権椎間板ヘルニアと診断され、同日入院し、同月一二日頸椎前方固定手術を施行され、以降同年五月一二日退院するまで七一間リハビリテーションによる治療を受け、同月一三日から同年七月三一日まで通院治療を受けていた(実日数四六日)こと、次いで同市内の北九州中央病院で同年八月一日から同月二〇日まで二〇日間入院治療を受け、同月二一日から同年一〇月二〇日まで通院治療を受け(実日数四九日)、その後再び同月二一日から同年一一月三〇日までの四一日間入院し、退院後の同年一二月一日から平成三年一二月三一日まで通院治療を受けた(実日数二七〇日)が、頸髄損傷による握力の低下、両手のしびれ、手関節運動障害を内容とする上肢運動障害や疼痛が治癒せず、同年一二月三一日症状が固定したこと、原告は本件事故後就労できる状態にはなく、今後改善の見込みもないこと、労災保険上、右後遺症について労働災害身体障害等級表三級三号に該当するとの認定がされていることが認められる。
2 損害額
(一) 入院雑費 一四万六四〇〇円
原告は前記認定のとおり本件事故により受傷し、九州労災病院に七一日間、北九州中央病院に六一日間入院しているところ、前記認定の傷害の程度によれば、そのうち原告主張の一二二日間につきその雑費として一日当たり一二〇〇円程度の支出を要したことが推認されるから、入院雑費としては次のとおり一四万六四〇〇円となる。
(計算式)
一二〇〇円×一二二日=一四万六四〇〇円
(二) 通院交通費
原告は、前記認定のとおり本件事故により受傷し、病院に通院したことが認められるが、その交通方法及び運賃が証拠上明らかではないから、交通費を損害としては認め難い。
(三) 休業損害 六七五万九五七六円
原告が、前記認定のとおり本件事故による受傷のため、本件事故発生日である平成二年三月三日から症状固定日である平成三年一二月三一日まで就労できなかったところ、〔証拠略〕によれば、原告は、本件事故当時有限会社西車配送センターに運転手として勤務し、一日当たり一万〇一〇四円を下らない収入を得ていたこと、本件事故後も同会社に在籍しているが、実収入はないことが認められるから、原告の休業損害は次のとおり六七五万九五七六円となる。
(計算式)
一万〇一〇四円×六六九=六七五万九五七六円
(四) 逸失利益 五六五九万六三一〇円
〔証拠略〕によれば、原告は昭和二七年五月一一日生まれの本件事故前健康な男性であったことが認められ、原告は、症状固定当時満三九歳であって、満六七歳まで二八年間就労可能であったと推認されるが、前記後遺障害の内容程度によると、本件事故により労働能力を一〇〇パーセント喪失したものと認められるところ、その間、日額一万〇四〇八円の収入(〔証拠略〕)を得ることができたものと推認されるから、これを基礎とし、労働能力喪失率を一〇〇パーセント、労働能力喪失期間を二八年とし、ライプニッツ方式により中間利息を控除して計算すると、次のとおり五六五九万六三一〇円となる。
(計算式)
一万〇四〇八円×三六五日×一四・八九八=五六五九万六三一〇円
(但し、一円未満切捨て、以下同じ>
(五) 慰謝料 一五〇〇万円
前記認定の本件事故の態様、原告の受傷の内容程度、治療経過、後遺障害の程度等に鑑みると、原告が本件事故により多大の精神的苦痛を蒙ったことは容易に推察するに難くないところ、右苦痛を慰謝するための慰謝料としては、本件に現れた諸般の事情を考慮し、一五〇〇万円をもって相当とする。
(六) 以上、(一)ないし(五)から原告の損害は、積極損害としては、入院雑費一四万六四〇〇円、消極損害としては、休業損害六七五万九五七六円、逸失利益五六五九万六三一〇円、精神的損害としては、慰謝料一五〇〇万円となり、合計七八五〇万二二八六円となる。
四 過失相殺
前記認定の本件事故当時の現場付近の照度によれば、前照灯を点灯し、前方を注視して走行していれば、制動措置を講じることが可能な位置で本件車止を発見できないわけではなかったところ、原告は誤ったバス車両の回送を防止するのを急ぐあまり、遵守すべき速度を超える時速約二〇ないし二五キロメートルで自転車を走行した上、前方をほとんど注視しておらず、本件車止の発見が遅れたため、本件事故を回避できたかったものと認められる。しかも本件歩道周辺での車止に関する事故はこれまで発生していないのである。
そうすると、原告においては、前方を注視し、通常の方法で自転車を走行させていれば本件車止への衝突という重大な結果を避けることができたというべきであるのに、初めて利用する歩道であるにもかかわらず、前方を十分に注視しないまま突進した過失によっても本件事故が発生したというべきである。
したがって、原被告双方の過失を対比すると、原告の損害から八割を減額するのが相当である。
結局、原告の損害は、積極損害と精神的損害を合計した上で過失相殺したものが、三〇二万九二八〇円、消極損害に過失相殺したものが一二六七万一一七七円となる。
五 損益相殺
原告は、労災保険から休業補償金として三八九万五四四二円、障害補償年金として一〇二七万五六二五円の給付を受けていることを自認しており、これらの合計一四一七万一〇六七円を、原告の損害のうち積極損害及び精神的損害を除く、消極損害の合計を前記過失相殺した後の合計一二六七万一一七七円から控除すると原告の後記弁護士費用を除く損害は三〇二万九二八〇円となる。
六 弁護士費用
原告が本訴の提起追行を原告代理人に委任し、相当額の報酬の支払を約していることが推認されるところ、訴訟の経過、認容額等に鑑みると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当額は三〇万円をもって相当と認める。
七 結論
以上によれば、原告の本訴請求は、被告に対し、損害賠償金三三二万九二八〇円及び右金額から弁護士費用三〇万円を除いた三〇二万九二八〇円に対する本件事故日である平成二年三月三日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、これを認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を各適用して(なお、仮執行免脱の宣言は相当でないからこれを付さない。)、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小山邦和 裁判官 永留克記 永谷幸恵)